DCACインバータがようやく完成しそうなので記事にしておきます。Twitterばかりやっているとブログを更新しなくなるので良くないですね。

 DCACインバータというのはバッテリなどの直流電源からAC100Vを作って家電製品を使えるようにするものです。停電時とかには役に立ちそうです。殆どの場合は60Hzの交流をトランスで昇圧して100Vにしているようですが、趣味なのでコスト度外視で昇圧コンバータ+高電圧インバータで作ってみました。LLCコンバータは昇圧で使います。

LLCコンバータとは

 その名の通り、キャパシタ、インダクタ、トランス(励磁インダクタンス)、を直列につないたものに交流電圧を印加するような回路になります。

特徴としては、
メリット:
・電源利用率よい
・ZVS
デメリット:
・ゲイン可変範囲が狭い
といったところでしょうか。他にも色々ありますが、とりあえずこんなところです。共振系なのにFETのドレイン電圧は電源電圧で済みますし、電流も電力相応になります。出力電圧の制御性が悪いため、PFCがある場合に降圧コンバータとして使われることが多いようです。今回は出力先がインバータで電圧制御をする予定なので制御性が悪くても問題なさそうです。

LLCの原理

 LLCはインピーダンスが誘導性の周波数領域でのみ動作させます。(それが普通です) なので基本はインバータで誘導負荷を駆動する要領でインダクタがFETの出力容量を充放電するため、ZVSができます。電流があるところまで増加すると共振区間になり、電流が戻ってくる、という感じです。

 出力電圧を変えられるのは誘導性領域で周波数を増加させるとLの端子間電圧が小さくなるためです。このLはトランスの励磁インダクタンスのことです。もう一つのLはチョークコイルです。ただし、トランスの漏れインダクタンスを利用することも出ますし、そうすれば回路の小型化に繋がります。

LLCの設計

 設計に関しては制御ICを販売しているメーカー各社がpdfでネットに公開しています。例えば、infinionや、TIなどです。他にも多数ありますので、資料に困ることはなさそうです。ただ、漏れインダクタンスを用いる場合には決まった値になるトランスを作るのは難しいので、先にトランスを作ってからその測定値をもとに設計するといいと思います。巻線の位置等にも依存しますが、漏れインダクタンスは概ね巻数に比例する傾向があるので目星をつけるのに使えるかと思います。

作ってみた

 というわけで作ってみました。制御は使い方が超簡単そうだったUCC25600です。最低限の機能はあるので一応使えます。FETはPSMN1R0-25YLDという低耐圧低Ronのものを使用しました。

入力キャパシタも導通性高分子ケミコンです。趣味とはいえ金かけすぎですね・・・。
300W出力にしては随分と大きいですが、ちょうどいい大きさのトランスが研究室になかったためです。周波数をもっと上げれば小型化できるんですが、コンデンサが耐えれないのでやめました。

動かしてみた


 動作波形です。水色がアーム電圧、緑色が一次側電流です(200mV/A)。特筆することもない正常な波形でした。ロゴスキーコイル電流計を使いましたがきれいに測れるものですね。
 これでめでたしめでたしとなればよかったんですが、実際にはシミュレーションとゲインが大きく異なったようで、出力電圧が足りないという自体に・・・。電力自体は200W程度までテストしてOKだったんですが、AC100Vが出せないとなると実用は100W程度となりそうです。これではあまりにも用途が限られるのですが、まあ勉強になったということにしておきます。次に作ることがあったら、トランスを作った時点で実際にゲインを測定します。
 高効率にできるLLCですが、今回作ったものはせいぜい85%程度で、LLCとしては微妙な結果に。制御回路がものすごい電力を食っているのが主な原因ですが、他にもトランス二次巻線が表皮効果のせいなのか、半端なく発熱しているのもあります。

無負荷

80W

135W
サーボグラフィーで見た感じでは、FETはほぼ発熱なし、ゲートドライバがやや発熱、二次側制御回路用プルアップ抵抗が爆熱(120℃)、二次側巻線も爆熱(100℃)という感じでした。制御回路が電力バカ食いするのは設計段階で予想はついていたいのでいいんですが(良くない)、トランスに関しては完全に設計ミスです。まだまだ勉強が足りませんね。


 次回はこれに搭載するインバータ部分の記事になりそうです。初めての試みとしてGaN-HEMTを使用しましたのでお楽しみに。