長らくTwitterで騒いでいたテスラコイルがようやく動作できる状態になったなので試験がてら動かしてみました。技術的な話をまとめる感じの記事になります。

テスラコイルとは


 テスラコイルは共振型変圧器の一種で、空芯結合でありながら共振により高い結合係数を持ち、二次側が開放端の伝送線路になることで高い電圧を発生させられるというものです。二次側は普通の長いソレノイドコイルですが、高電圧とそこそこの周波数で寄生キャパシタンスの影響が無視できなくなり、伝送線路としてふるまいます。まるでモノポールアンテナですね。共振周波数が高いとドライブするのが大変なので二次コイルの開放端にはトロイドと呼ばれる金属球がついています。キャパシタンスを増加するのが目的で、動作原理自体には関係ありません。(こんな感じで合ってますよね?)
 普通に一次コイルに電流を流すだけでも放電しますが、多くのテスラコイルメーカーは一次側も共振させることで瞬間的に大きな電流を流し、強力な放電を実現しています。これがDRSSTCと呼ばれるものです。他にもいろいろありますが、一番メジャーなのはDRSSTCでしょう。

今作の概要

三倍共振テスラコイル 2号機
 二次側共振系

  • コイル長: 40cm
  • 平均半径: 8cm
  • 巻き数: 1200程度
  • 巻線: φ0.32 UEW
  • 構造: 11極バスケットコイル
  • トロイド: 半径10cmのアルミボウル張り合わせ
  • 共振周波数: 420kHz程度
 一次側共振系
  • 一次コイル: リッツ線5ターン 6~7uH
  • 共振コンデンサ: 0.01uF2並列
 駆動系
  • バス電源: SiC PFC 450V700Wmax
  • インバータ: 水冷SiCフルブリッジ 絶縁電源ゲートドライブ
  • 制御: CTフィードバック PLL方式 三倍共振
今作の最大の特徴はバスケットコイルとフルSiCでしょうか。というよりほかの部分は前作とおおむね変わりません。技術的には細部もいろいろと向上してるんですが、こうしてまとめてみるとやはり同じ人間が作ったものなんだな、って感じですね。

バスケットコイル

 今回は二次コイルをバスケットコイルにしてみました。バスケットコイルとは、スパイダーコイルを立てたような形状で、巻線間の距離を広げられるため、寄生容量が小さくなり、Q値が高くなります。バスケットコイルは円周上に奇数本の円柱を立てて、巻線を内側外側を交互に繰り返して縫うように巻いていきます。
ただし、長いコイルは普通作りません。テスラコイルの二次コイルは細長いコイルで普通に作ろうとするとかなり大変なので、二段に分けました。アクリルパイプの中に細いアクリルパイプを差し込んで連結して長くすることのできるバスケットコイルの治具になります。
 バスケットコイルを巻く時の注意点として、外側の巻線の張力の方が強くなるため次第にすぼんでいきます。今回は3Dプリンタでこんな治具を作り、上の方でパイプを抑えながら巻きました。
最も、巻線を通すたびに隙間を作らないといけなくなり非常にめんどくさいんですが・・・。
 で、なんやかんやあって完成したコイルがこちらになります。死ぬほどめんどくさかったので二度とやりません。Q値は測ろうと思いましたが研究室のインピーダンスアナライザでは精度が出なかったので諦めました。

水冷SiCインバータ

 今回のテスラコイルは共振周波数が420kHz程度で、三倍共振を利用するのでスイッチング周波数は140kHz程度です。まあSiデバイスでも可能な周波数ですが大容量だと厳しいのでSiCにしてみました。(というか研究で発生する残りカスの素子を再利用しただけですが) SiCだと同程度の定格でもゲート容量が小さかったりしてドライブが楽です。今回はゲートドライブトランスではなく、絶縁電源+絶縁ゲートドライバでドライブしています。GDTで駆動するのはゲート耐圧が非対称かつシビアなSiCではリスキーですからね。
水冷ベッドはAmazonで売っていたものです。そのままだとTO247を固定できないのでドリルで穴をあけたのち、アルミパイプを圧入して隙間に接着剤を流しています。なんかわずかに漏れている気がしますが気にしたら負けです。我が家のボール盤は軸ぶれしてるのできれいに穴開けられないんですよね・・・。
 ちなみに、メイン基板に対して直立している基板がゲートドライブ回路です。大電流の近くなので直交させました。効果があるのかはよくわかりませんが、スペース的にもこっちの方がいいです。一応、回路図も載せておきます。
何ってこともない普通のゲートドライブ回路です(パワー素子がx2個あるのはメイン基板とゲートドライブ基板の両方にフットプリントが必要だからで、回路的に意味はありません)。負バイアス引かずにミラークランプを使っています。最近のSiCはVthが高いのでこれでも十分使えます。

三倍共振用制御回路

 三倍共振というのは矩形波の三次高調波を利用しているという意味で、私は勝手にこのテスラコイルをTRSSTCと呼んでいます。三倍共振を利用することで周波数を1/3にすることができるので素子にやさしいテスラコイルになります。基本原理はDRSSTCと同じなので、基本的にDRSSTCと同じように設計します。私は起動信号から起動するのは嫌いなのでPLLを使います。とりあえず回路図を載せておきます。
 今回は分周期の都合でどうしても0位相検出を両エッジトリガにしたかったのでCT周辺の回路が変則的ですが単純に反転信号を同時に得ているだけです。ZDクランプで電圧クランプしているのは5V系に逆流するのを防ぐためです。最初、ZDを直にCTにつないでいましたが、どうやらZDの接合容量はかなり大きいようで、伝番遅延が大きくなってしまったので急遽変更しました。ちなみに、この0位相検出回路はCTを無極性で使えるうえ、電流振幅に伝搬遅延が依存しにくいという優れものです。かなり小さい電流から検出できますし、大電流でもZDクランプなので電源に影響を与えず動作できます。
 PLL周りは4046をごく普通に使っているだけです。なお、伝搬遅延をここで補償できるのでインバータはほぼ完ぺきにZCSできます。ただ、ループフィルタの応答が遅いと大惨事になるのでちゃんと設計する必要があります。今回はステップ応答から推定して応答性重視のフィルタを組みました。
 インタラプタは例によって光ファイバで受信しますが、今回は魔改造受光素子ではなく、TOS-Linkの純正レシーバを使いました。よくあるS/PDIF用のコネクタ形状で使い勝手が良いです。ちなみに、秋月とかにもPLR135とかがあると思いますが、実はあれ、DC信号を受信することができずタイムアウトしてHになります。これはヤバすぎるので何か手はないかと探っていたら東芝のTOS-LinkレシーバならDCでも受信できました。回路的にセーフティをかけることもできますが(やってる方いました)、私は金で解決したわけです。
 テスラコイルの制御回路は星の数ほどネットに転がっていますが、今回はいろいろと設計が大変でした。まあ細かいことを言い出すときりがないのでここら辺にしておきます。


 とりあえず動かすために仮組したものがこちら。
そこら中テープまみれで汚いですがとりあえず動けばOKです。
 実際に動作させた際の動画をTwitterに挙げています。

素子を一つも壊さなかったので貴重なSiCを浪費せずに済みました。まだ試験動作なので今後壊す可能性は大いにありますが・・・。
 今回は書きたいことが多すぎて長文になりそうだったので極限まで詳細を省きました。質問等あればTwitterかこのブログのコメント欄にてお知らせください。